不定期連載〜ダークノベル第1話「死神」

河野 智洋

正直に言おう。その夜、俺は欲していた。
コロナ禍の夜の街、足早に雑居ビルへ潜りエレベーターへ。
知人から案内されたのは、その店のドアではなく、その店の奥のネクストドア。
「こっちの方が、人が来なくていい」。なるほど確かにその通りだ。
薄暗い店の奥に横たわっていたのは老博士、いやもっと言うなら
死神みたいなマスターで、のっそりと起き上がり笑顔を浮かべてこういった。
「好きなんでしょ…いいね」、「どんな感じがいいんかなぁ」、「お客は来ないよ」。
このフレーズを7分間で4回リピート、まるでデヴッドリンチの映画のようだ。
「それ、さっきも言ってましたよ」と、知人がナイスアシスト。
「まぁ、じっくり楽しんでください」と、ようやく独りにしてくれた。

グラスに注がれたジャックダニエルは半分以上残っている。
が、それは俺が今、欲しているものとは違う。
カウンターのブツに近づくと、あの独特な匂い。
隣の店で始まったブルースバンドのセッションが音漏れしている。
あぁ至福の刻じゃないか…だが、愉しむべき場所はここじゃない。
はやる気持ちを抑えながら、アフター60ミニッツ。
事務所に戻り、誰もいなくなっていることを確認した後、
ゆっくりとソファに腰を下ろす。手に入れたブツは丁寧すぎるほど丁寧に扱う。
なぜならこれは儀式なのだ。チリチリと心焦がす音がする。
妖艶、興奮、開放…あとは何だ?
どのくらいの時がすぎたのか…カーテンの隙間から、朝の光が射していた。




「昔からの知り合いでロックが大好きな方と一緒に焼き鳥を食べて、そのあとレコードがあるお店に連れて行ってもらったら、とってもジェントルマンなマスターがいて、お気に入りの盤をそこでたくさん買えて、我慢できずに事務所に戻ってつい調子に乗って朝までガンガン聴いて、翌日すげー眠かったんよね」を半分くらいはホントの話で、あとはテキトーにいくつかの映画や小説を思い浮かべながら書いてみただけの自己満足企画でした。